
(最終更新:2026年7月20日)
この記事の要点
- 労働者派遣事業は許可制で、財産的基礎(資産要件)を満たすことが許可・更新の条件
- 資産要件は基準資産2,000万円・現預金1,500万円(各×事業所数)・基準資産≧負債÷7の3つ
- 「一般労働者派遣事業」の区分は2015年9月30日施行の改正で廃止され、許可制に一本化
- 年度決算で満たせない場合は、中間・月次決算に監査証明またはAUPを付けて審査を受けられる
- 合意された手続の拠り所は日本公認会計士協会の専門業務実務指針4450(研究報告24号は廃止)
労働者派遣事業の許可と更新では、直近の決算書で3つの資産要件を同時に満たしていることが求められます。年度決算で1つでも欠けていた場合でも、その時点で更新できないと決まるわけではありません。増資などの対策を行ったうえで中間又は月次の決算書を作成し、公認会計士の監査証明または合意された手続実施結果報告書を添付して審査を受ける道が用意されています。このページでは、根拠となる条文と3つの数字、そして公認会計士の関与が必要になる仕組みを整理します。
目次
派遣事業の許可に必要な「財産的基礎」とは?
財産的基礎とは、労働者派遣事業を的確に遂行するに足りる能力があるかどうかを、直近の決算書の数字で確かめるための許可要件です。労働者派遣法は、労働者派遣事業を行おうとする者は厚生労働大臣の許可を受けなければならないと定め(労働者派遣法5条)、申請者が当該事業を的確に遂行するに足りる能力を有する場合に許可する旨を定めています(同法7条)。この「的確に遂行するに足りる能力」を財産の面から測る基準が、財産的基礎です。
厚生労働省の「労働者派遣事業関係業務取扱要領」では、事業を的確・安定的に遂行するに足りる財産的基礎、組織的基礎、当該事業に適した事業所の確保等が求められています。このうち数字で明確に線が引かれているのが財産的基礎であり、実務で最もつまずきやすい要件でもあります。
制度の全体像と最新の様式は、厚生労働省「労働者派遣事業・職業紹介事業」で公表されています。
資産要件の3つの数字は具体的にいくら?
労働者派遣事業の資産要件は、次の3つです。3つは同時に満たす必要があり、1つでも欠けると許可・更新はできません。
| 要件 | 基準 | 決算書で見る場所 |
|---|---|---|
| 基準資産額 | 2,000万円以上 × 事業所数 | 資産総額−負債総額−繰延資産−営業権 |
| 現金・預金 | 1,500万円以上 × 事業所数 | 資産の部「現金及び預金」 |
| 負債比率 | 基準資産額 ≧ 負債総額 ÷ 7 | 負債の部の合計 |
基準資産額と現金・預金には事業所数を掛けます。事業所が2つになると、必要額は基準資産4,000万円・現預金3,000万円へ跳ね上がります。負債比率の要件に事業所数は掛けません。
なお、常時雇用する派遣労働者数が少ない小規模な事業主については、当分の間の暫定的な配慮措置が設けられていますが、対象は限定的です。自社が対象になるかどうかは、厚生労働省の資料または労働局で確認することをおすすめします。
基準資産額の計算手順と計算例は、派遣許可の資産要件と基準資産額の計算方法の記事で図解しています。
「一般労働者派遣事業」という区分は今もある?
「一般労働者派遣事業」という区分は、現在は存在しません。2015年(平成27年)9月30日に施行された改正労働者派遣法により、届出制の特定労働者派遣事業と許可制の一般労働者派遣事業という区分は廃止され、すべての労働者派遣事業が許可制に一本化されました。旧特定労働者派遣事業に係る経過措置も2018年(平成30年)9月29日で終了しています。
そのため、現在の申請手続で使う名称は「労働者派遣事業の許可」および「許可の有効期間の更新」です。「一般労働者派遣事業の更新」という表現を使っている解説は、2015年より前の情報である可能性が高いため、数値や手続の内容も含めて最新の要領で確認する必要があります。
許可の有効期間は、新規許可が3年、更新後は5年です。更新は有効期間が満了する日までに手続を終える必要があるため、決算期から逆算した準備が欠かせません。
決算書で3要件を満たせないとどうなる?
直近の年度決算書で3要件のいずれかを満たせなくても、その時点で更新できないと確定するわけではありません。一時的な業績の変動で財産的基礎を充足できないことは実務上あり得るため、増資などの対策を講じたうえで、許可要件を満たした中間又は月次の貸借対照表・損益計算書を作成し、これに公認会計士による監査証明または合意された手続実施結果報告書を添付して審査を受ける手続が用意されています。
かつては、市場性のある資産の再販売価格の評価額の証明、増資の証明、預金等の残高証明書を提出することで新規許可や有効期間の更新が認められていました。これらの取扱いは廃止され、現在は公認会計士等による監査証明または合意された手続に代替されています。
資産要件を満たせない場合の具体的な立て直しの順序は、資産要件を満たせないときの対応方法の記事にまとめています。
監査証明と合意された手続は何が違う?
監査証明は公認会計士が計算書類に対して意見を表明する業務であり、合意された手続(AUP)は事前に合意した手続を実施してその結果を事実として報告する業務です。合意された手続実施結果報告書には結論や意見の表明が含まれません。この違いにより、更新実務では手続の範囲と期間・費用を見通しやすい合意された手続が広く用いられています。
合意された手続の拠り所となるのは、日本公認会計士協会が2018年12月に公表した専門業務実務指針4450「労働者派遣事業等の許可審査に係る中間又は月次決算書に対する合意された手続業務に関する実務指針」です。同指針の公表に伴い、それまで参照されていた監査・保証実務委員会研究報告第24号は廃止されました。
専門業務実務指針4450「労働者派遣事業等の許可審査に係る中間又は月次決算書に対する合意された手続業務に関する実務指針」(日本公認会計士協会、2018年12月20日公表)
合意された手続といっても、事業主と公認会計士が手続を自由に決められるわけではありません。厚生労働省の所管労働局による許可の有効期間の更新に係る審査に利用されるため、その利用目的に適合する適切な手続を選定して実施することが求められます。
どちらを選ぶべきかの判断材料は、監査証明と合意された手続の違いを比較した記事で整理しています。
合意された手続では何を確かめる?
合意された手続は、年度決算書からの連続性に着眼して実施されます。期首および期中が前期と同様の処理で行われていれば、対象となる中間・月次決算書は年度決算書と整合した内容になっているはずだ、という考え方です。主な着眼点は次の3つです。
期首残高の妥当性
直近の年度決算書の貸借対照表・損益計算書に計上された勘定科目の金額を、帳簿記録や税務申告資料と照合します。あわせて、対象となる月次決算書の貸借対照表・累計損益計算書の金額を関連する帳簿と照合します。これにより、提出済みの税務申告書を出発点として月次決算書が作成されていることを確かめます。
期中取引の正確性
年度決算日後から対象となる月次決算書までの期間について、資産科目は増加、負債科目は減少に着眼し、基準資産額に重要な影響を及ぼす勘定科目に関する裏付証憑の提示を受けて証憑突合を行います。増資や資産の入金が実在するかを、書類で確かめる手続です。
会計方針の継続性
対象となる月次決算書と年度決算書で適用された会計方針が継続しているかどうかを、質問により確認します。期中だけ有利な会計処理に切り替えて基準資産額を作り出すことはできません。
なお、労働者派遣事業の許可審査では年度決算書そのものへの監査は求められていません。年度決算書には法人税の税務申告書の写しと納税証明書が添付され、計上金額に一定の信頼性が付与されていると解されるためです。この趣旨を踏まえると、月次決算であっても貸倒引当金の計上や減価償却費の計上といった決算整理を、重要な項目については年度決算と同様に行う必要があるかを検討することになります。月次決算の作り方は派遣事業の更新に必要な月次決算の記事で解説しています。
よくある質問(FAQ)
労働者派遣事業の許可の有効期間は何年ですか?
労働者派遣事業の許可の有効期間は、新規許可が3年、更新後は5年です。有効期間が満了する日までに更新の手続を終える必要があるため、決算期と満了日から逆算して準備を始めることが重要です。
「一般労働者派遣事業」の許可は今も取得できますか?
「一般労働者派遣事業」という区分は、2015年9月30日施行の改正労働者派遣法で廃止されました。現在はすべての労働者派遣事業が許可制に一本化されているため、申請する許可の名称は「労働者派遣事業の許可」です。
労働者派遣事業の資産要件は、事業所が増えると変わりますか?
労働者派遣事業の資産要件のうち、基準資産額2,000万円と現金・預金1,500万円には事業所数を掛けます。事業所が2つであれば基準資産4,000万円・現預金3,000万円が必要です。基準資産額が負債総額の7分の1以上という要件には、事業所数を掛けません。
更新申請では監査証明と合意された手続のどちらを使えますか?
労働者派遣事業の許可の有効期間の更新では、公認会計士による監査証明のほか、合意された手続実施結果報告書による取扱いも認められています。合意された手続は実施する手続の範囲があらかじめ合意されるため、期間と費用を見通しやすい点が実務上の利点です。
合意された手続実施結果報告書は顧問税理士に依頼できますか?
合意された手続実施結果報告書および監査証明は、公認会計士または監査法人でなければ発行できません。税理士資格のみでは発行できないため、顧問税理士とは別に公認会計士へ依頼する必要があります。
月次決算書にも減価償却費や貸倒引当金の計上は必要ですか?
労働者派遣事業の許可審査に用いる月次決算書では、重要な項目について年度決算と同様の決算整理が求められる場合があります。減価償却費や貸倒引当金を計上していない月次決算書をそのまま使えるとは限らないため、公認会計士に依頼する前に処理方針を確認しておくと手戻りを防げます。
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