
直近決算で基準資産2,000万円に届かなくても、増資等で純資産を積み、月次・中間決算に公認会計士の証明を受ければ更新は目指せます。
この記事の要点
- 資産要件は3つ:現預金1,500万円・基準資産2,000万円(いずれも×事業所数)・基準資産≧負債総額÷7
- 直近決算で不足していても、増資+月次・中間決算で更新を目指せる
- その場合、公認会計士による監査証明または合意された手続(AUP)が必要
- 費用・スケジュール・よくある失敗まで、200件超サポートの実務をもとに解説
「今期の決算書を見たら、純資産が2,000万円に届いていなかった」――許可更新を控えた派遣会社の経営者さまから、毎年この時期に多くいただくご相談です。結論からお伝えすると、直近の決算数値だけで諦める必要はありません。実務上は、増資などで財務を立て直したうえで月次決算・中間決算を組み、公認会計士の監査証明または「合意された手続(AUP)」を受けることで、資産要件を満たして申請する道が認められています。
この記事では、労働者派遣事業の許可更新を200件超サポートしてきた公認会計士の立場から、①資産要件の正確な中身、②満たせないときの3つの現実的な道、③費用とスケジュール、④実務でよくある失敗までを、順を追ってご説明します。
目次
そもそも派遣許可の「資産要件(財産的基礎)」とは?
資産要件(財産的基礎)とは、労働者派遣事業の許可・更新の際に、直近の決算書(貸借対照表)で判定される財務面の許可基準です。現預金・基準資産額・負債比率の3つの基準をすべて満たす必要があり、1つでも欠けると原則としてそのままでは更新が認められません。
労働者派遣事業の許可・更新では、直近の決算書(貸借対照表)をもとに、次の3つの要件をすべて満たしているかが審査されます。1つでも欠けると、そのままでは許可・更新が認められません。判定の基礎となる許可基準は、厚生労働省「労働者派遣事業・職業紹介事業」のページで公表されています。
要件は次の3つです。
- 現金・預金の額が1,500万円以上であること(×事業所数)
- 基準資産額(資産総額-負債総額-繰延資産-営業権)が2,000万円以上であること(×事業所数)
- 基準資産額が、負債総額の7分の1以上であること(基準資産 ≧ 負債総額÷7)
| 要件 | 基準 | 見る場所 |
|---|---|---|
| ① 現預金要件 | 現金・預金 1,500万円以上 ×事業所数 | 貸借対照表の現金・預金 |
| ② 基準資産要件 | 基準資産額 2,000万円以上 ×事業所数 | 純資産から繰延資産・営業権を控除 |
| ③ ÷7要件 | 基準資産額 ≧ 負債総額 ÷ 7 | 基準資産と負債総額のバランス |
※基準資産額=資産総額-負債総額-(繰延資産+営業権)。純資産の金額とほぼ重なりますが、繰延資産や営業権(のれん)がある場合は差し引かれる点にご注意ください。
なお、有料職業紹介事業にも同様の財産的基礎の要件があります。派遣と紹介の両方をお持ちの会社さまは、それぞれ別枠で判定される点に注意が必要です。
| 労働者派遣事業 | 有料職業紹介事業 | |
|---|---|---|
| 基準資産 | 2,000万円以上 ×事業所数 | 500万円以上 ×事業所数 |
| 現預金 | 1,500万円以上 ×事業所数 | 150万円+60万円×(事業所数-1)以上 |
| ÷7要件 | あり | なし |
▶ 関連記事:【図解】3つの資産要件を貸借対照表のどこで見るか(計算例つき)
直近の決算で満たせない=もう更新できない?
いいえ、そうとは限りません。ここがこの記事でいちばんお伝えしたいところです。
直近の年度決算で要件を満たせなくても、その後の月次決算または中間決算で要件を満たしていれば、公認会計士(または監査法人)の監査証明・合意された手続を付けることで、その月次・中間の数値で資産要件を判定してもらうことが可能です。 これは日本公認会計士協会「専門業務実務指針4450」(労働者派遣事業等の許可申請に係る合意された手続業務等)に沿った、確立された実務です。
つまり、実務の流れとしては次のようになります。
- 直近決算で不足額を把握する
- 増資などの対策を実行して財務を改善する
- 改善後の月次(中間)決算を締める
- 公認会計士の監査証明/合意された手続実施結果報告書を受ける
- その書類を添えて労働局へ更新申請する
「決算書の数字が足りない=廃業や事業縮小しかない」と思い込んでしまう経営者さまは少なくありませんが、実務上はこのルートで更新に至るケースが一般的にあります。まずは不足額と期限を正確に把握することが第一歩です。
資産要件を満たす3つの現実的な道は?
不足を埋める方法は、実務上おおむね次の3つに整理できます。どれが向いているかは、不足の内訳(現預金が足りないのか、純資産が足りないのか、負債が重いのか)によって変わります。
| ① 増資 | ② DES(デット・エクイティ・スワップ) | ③ 負債圧縮・資産組替 | |
|---|---|---|---|
| 内容 | 株主・経営者等が払込みで資本を増やす | 役員借入金などの負債を資本(株式)に振り替える | 短期借入の返済、不要資産の売却・整理など |
| メリット | 純資産と現預金を同時に増やせる。負債を増やさない最も素直な方法 | 手元現金を使わずに純資産を改善できる。役員借入が多い会社と相性が良い | 追加の資金拠出が不要な場合がある。÷7要件の改善に直接効く |
| デメリット | 払い込む現金の用意が必要。登記手続が要る | 現預金は増えない(①現預金要件には効かない)。税務上、債務消滅益等の論点があり事前検討が必要 | 現預金を返済に充てると①現預金要件を圧迫しかねない。効果額が読みにくい |
| スピード | 比較的速い(払込→登記で、実務上は数日〜2週間程度が目安) | 中程度(税務・法務の検討と登記が必要) | 内容による(資産売却は相手のある話のため時間がかかる場合も) |
| 向くケース | 現預金・基準資産の両方が不足している場合の第一候補 | 役員借入金が大きく、現預金要件は満たしている場合 | ÷7要件だけがわずかに欠ける場合、遊休資産がある場合 |
実務上は「①増資を軸に、状況に応じて②③を組み合わせる」形が一般的です。特にDESは税務上の取り扱い(債務消滅益の認識など)に注意点があるため、実行前に税務の専門家を交えた検討をおすすめします。
なお、役員借入金への対応としては、DES(資本への振替)のほかに債権放棄(免除)という方法もあります。会社側は借入金という負債が消えて純資産が改善しますが、その分「債務免除益」が発生し法人税の課税対象になりうるため、DESとはまた別の税務上の検討が必要です。どちらが自社に適しているかは、金額や会社の状況によって変わるため、こちらも税理士にご確認のうえ判断することをおすすめします。
増資したら、なぜ公認会計士の監査証明・合意された手続が要るの?
「増資して月次決算を組めば、それで提出できるのでは?」と思われるかもしれませんが、年度決算以外の数値(月次・中間決算)で資産要件の判定を受けるには、公認会計士等による証明が必須です。自社作成の試算表を自己申告で出すだけでは、資産要件を満たす資料として扱ってもらえません。
必要な証明の種類は、新規か更新かで異なります。
| 申請の種類 | 必要な手続 |
|---|---|
| 新規許可 | 公認会計士・監査法人による監査証明が必要 |
| 許可更新 | 監査証明のほか、合意された手続(AUP)による報告書でも可 |
更新であればAUPが使えるため、監査に比べて手続・費用の負担を抑えられるのが一般的です(監査とAUPの違いの詳細は、別記事「監査証明とAUPはどう違う?」をご覧ください)。
もうひとつ、依頼先選びで必ず押さえていただきたいのが独立性の要件です。その会社の記帳や決算に関与している会計士・顧問の公認会計士は、独立性の観点からこの証明業務を引き受けられません。 顧問の先生にそのまま頼んで、あとから差し戻しになるケースが実務では起こりがちです。証明は、日頃の会計に関与していない外部の公認会計士・監査法人に依頼する必要があります。
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費用とスケジュールはどれくらい?
費用の相場
公認会計士による監査証明・AUPの費用相場は、おおむね15〜30万円です。(監査証明のほうがAUPより高くなる傾向があり、会社規模によっても変動します。)
当センターの報酬は11万円(税込)〜(※事業所数1・総資産2,500万円以内の事業者様の場合。規模に応じて個別お見積り)です。 派遣・職業紹介の許可手続に特化しているため、この水準でお受けしています(料金の詳細は費用ページをご覧ください)。
提出期限からの逆算スケジュール
更新申請は、許可の有効期間が満了する日の3か月前までに行うのが原則です。申請の流れや必要書類まで含めた全体像は派遣更新の完全ガイドで整理しています。そこから逆算すると、動き出しのタイミングは次のようなイメージになります。
| 時期(目安) | やること |
|---|---|
| 期限の3〜4か月前 | 直近決算で不足額を確認・対策の方針決定 |
| 期限の2〜3か月前 | 増資等を実行(払込・登記完了まで) |
| 増資の翌月 | 増資後の月次(中間)決算を締める |
| 月次確定後 | 公認会計士の証明を取得(最短即日〜数日で発行される場合があります) |
| 期限まで | 労働局へ更新申請 |
ポイントは、証明の対象になるのは「増資が反映された月の月次決算」だという点です。増資の払込みが月をまたぐと、証明できる月次も1か月後ろにずれます。期限が迫っている場合ほど、「いつ払い込み、どの月で締めるか」を先に固めることが大切です。
▶ 関連記事:提出期限から逆算する月次決算・監査証明のスケジュール
経過(配慮)措置は使える?
小規模な派遣元向けに、資産要件を緩和する配慮措置が設けられていますが、対象はかなり限定的です。「常時雇用する派遣労働者が10人以下」かつ「事業所が1つ」のまま事業を続ける、すでに許可を受けている事業者のみが対象で、これから規模を広げたい会社さまや複数事業所の会社さまは使えません。
「配慮措置があるから大丈夫」と思い込まず、まずはご自身が対象かどうかを確認されることをおすすめします。多くの会社さまは、本則の3要件で判定を受けることになります。
実績200件超の実務から――よくある失敗5つ
当センターがこれまで200件超の許可・更新をサポートするなかで、実際に見聞きしてきたつまずきを一般化してご紹介します。
- 増資の実行が提出期限に間に合わない。 増資は「株主の決定→払込→登記」まで済んで初めて月次決算に反映できます。登記や金融機関の手続に想定より日数がかかり、証明対象の月次を締められないまま期限が迫る、というケースが典型です。逆算は「登記完了日」基準で組むのが安全です。
- 基準資産ばかり見て、現預金1,500万円の要件を見落とす。 増資額を「純資産の不足分ぴったり」で設計してしまい、現預金要件に届かないパターンです。増資した資金を直後に借入返済や支払いに充ててしまい、月次決算の時点で現預金が目減りしていた、という形でも起こります。
- ÷7要件だけが抜ける。 現預金も基準資産2,000万円もクリアしているのに、負債総額が大きいために「基準資産≧負債÷7」だけ満たせていない、という見落としです。3要件は必ずセットで検算する必要があります。
- 顧問の会計士にそのまま証明を頼み、独立性で差し戻しになる。 気心の知れた顧問の先生に依頼したくなるのは自然なことですが、関与先の証明は独立性の観点から認められません。差し戻しからの依頼先探しで数週間を失うと、期限に直撃します。
- 月次・中間決算の締めが遅れて、証明のスケジュールが崩れる。 普段は年1回の決算しか組んでいない会社さまだと、月次を「証明に耐える精度」で締めるのに想定以上の時間がかかることがあります。残高証明の取得や売掛・買掛の確定など、締めに必要な資料を早めに揃えておくことが有効です。
FAQ(よくあるご質問)
Q1. 決算が終わった後に増資しても、更新に間に合いますか?
A. 間に合う場合があります。増資後の月次(中間)決算を締め、公認会計士の証明を付ければ、その数値で資産要件の判定を受けられるのが実務上の取り扱いです。ただし増資の登記完了から月次の締め、証明の発行までの日数を、申請期限から逆算しておく必要があります。期限まで2か月を切っている場合は、お早めのご相談をおすすめします。
Q2. 赤字決算でも更新は通りますか?
A. 資産要件は「損益」ではなく「貸借対照表」で判定されます。赤字であっても、現預金・基準資産・÷7の3要件を満たしていれば、資産要件の面では問題にならないのが一般的です。逆に黒字でも、配当や借入で要件を割り込むことはあり得ます。
Q3. 監査法人と公認会計士事務所、どちらに頼んでもよいのでしょうか?
A. どちらでも構いません。制度上は「公認会計士または監査法人」による証明とされています。規模の大きくない派遣会社さまであれば、派遣の許可実務に慣れた会計士事務所のほうが、費用・スピードの面で選びやすい場合が多いです。
Q4. 顧問税理士に証明をお願いすることはできますか?
A. できません。この証明は公認会計士(監査法人)の業務であり、税理士資格のみでは行えません。また、公認会計士資格をお持ちの顧問の先生であっても、日頃の会計・税務に関与している場合は独立性の要件から証明を引き受けられないのが原則です。関与のない外部の公認会計士へのご依頼が必要です。
Q5. 証明書は何日くらいで発行されますか?
A. 月次(中間)決算の数値と必要資料が揃っていれば、実務上は最短即日〜数日で発行できる場合があります。時間がかかるのは証明そのものより「月次を証明に耐える形で締める」工程であることが多いため、残高証明や増資関係書類の準備を先行させるのがおすすめです。
Q6. 有料職業紹介の許可でも同じ方法が使えますか?
A. 基本的な考え方は同じです。有料職業紹介にも財産的基礎の要件(基準資産500万円×事業所数など)があり、直近決算で満たせない場合に月次・中間決算+公認会計士の証明で判定を受ける道が同様に認められています。派遣と紹介の両方をお持ちの場合は、要件が別枠で判定される点にご注意ください。
まとめ
- 派遣許可の資産要件は ①現預金1,500万円以上/②基準資産2,000万円以上×事業所数/③基準資産≧負債÷7 の3点セット。
- 直近決算で届かなくても、増資等+月次・中間決算+公認会計士の証明で更新を目指せるのが実務上の取り扱い。
- 対策は 増資/DES/負債圧縮・資産組替 の3つ。不足の内訳に合わせて組み合わせる。
- 証明の依頼先は関与のない外部の公認会計士へ。費用相場は15〜30万円、当センターは11万円(税込)〜(事業所数1・総資産2,500万円以内の場合)。
- 勝負を分けるのは期限からの逆算。迷ったら、まず不足額の把握から始めてみてください。
この記事の著者
田中伸一(公認会計士・税理士/公認会計士登録番号18245/田中公認会計士事務所・派遣事業更新センター)
日本公認会計士協会 専門業務実務指針4450に準拠した、労働者派遣事業・有料職業紹介事業の許可申請に係る監査証明・合意された手続業務を専門とする。支援実績200件超、労働局での不受理ゼロ・更新率100%(当事務所受任案件の実績)。※これまでの実績であり、将来の結果を保証するものではありません。派遣専門の公認会計士3名が常駐。
詳しいプロフィールは田中伸一のプロフィールページをご覧ください。
公開日:2026年7月17日
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