
有料職業紹介事業の許可・更新では、基準資産額500万円以上(×事業所数)と現金・預金150万円以上という財産的基礎(資産要件)を満たす必要があります。直近の決算書で不足していても、増資等を行ったうえで月次・中間決算に公認会計士の監査証明またはAUP(合意された手続)を受ければ、その数値で再判定を受けられます。派遣と紹介の両方をお持ちの場合の「別枠判定」まで含めて、公認会計士が解説します。
この記事の要点
- 有料職業紹介の財産的基礎は、基準資産額500万円以上×事業所数が第一の基準
- 現金・預金は150万円+60万円×(事業所数−1)以上。派遣にある÷7要件はない
- 派遣(基準資産2,000万円〜)と紹介(500万円〜)は別枠で判定され、合算はできない
- 新規許可は公認会計士の監査証明が必須、更新申請はAUPでも認められる
- 直近決算で不足しても、増資等+月次・中間決算+証明で再判定を受けられる
目次
有料職業紹介の資産要件(財産的基礎)とは?
有料職業紹介の資産要件(財産的基礎)とは、許可の新規申請・更新の際に、事業を安定して運営できる財産があるかを貸借対照表で審査する基準です。基準資産額500万円以上(×事業所数)と、現金・預金150万円以上という2つの数値基準を、直近の決算書などの数値で満たす必要があります。
根拠は職業安定法第31条の「事業を健全に遂行するに足りる財産的基礎を有すること」という許可基準で、具体的な数値は厚生労働省「職業紹介事業パンフレット―許可・更新等マニュアル―」に示されています。新規許可のときだけでなく、5年ごと(初回は3年)の有効期間の更新でも同じ基準で審査されます。
基準資産額500万円と現預金150万円はどこで判定される?
判定の土台になるのは、原則として直近の年度決算の貸借対照表です。満たすべき数値基準は次の2つです。
- 基準資産額500万円以上。 資産総額(繰延資産・営業権を除く)から負債総額を差し引いた額が、500万円×事業所数以上であることが必要です。
- 現金・預金150万円以上。 自己名義の現金・預金が、150万円+60万円×(事業所数−1)以上であることが必要です。
たとえば事業所が1か所なら基準資産額500万円・現預金150万円、2か所なら基準資産額1,000万円・現預金210万円が最低ラインです。詳細な計算方法は厚生労働省パンフレット(令和7年4月版PDF)で確認できます。
注意したいのは、基準資産額が「資産−負債」で計算される点です。借入金で現金・預金を積み増しても、同じ額だけ負債が増えるため、基準資産額は1円も改善しません。現預金要件と基準資産要件は、別々の対策が必要になることがあります。
派遣の資産要件とどう違う?
労働者派遣事業と比べると、有料職業紹介の資産要件は金額の水準が低く、項目も1つ少なくなっています。両者の違いは次の表のとおりです。
| 要件 | 労働者派遣事業 | 有料職業紹介事業 |
|---|---|---|
| 基準資産額 | 2,000万円以上×事業所数 | 500万円以上×事業所数 |
| 現金・預金 | 1,500万円以上×事業所数 | 150万円+60万円×(事業所数−1)以上 |
| 負債比率(÷7)要件 | あり(基準資産額≧負債総額の7分の1) | なし |
派遣で審査される「基準資産額が負債総額の7分の1以上」という÷7要件は、職業紹介にはありません。その分、職業紹介の判定はシンプルですが、基準資産額から繰延資産と営業権(のれん)を差し引く計算構造は派遣と共通です。
派遣と紹介の両方を持っていたらどうなる?
人材紹介と労働者派遣の両方の許可を持つ(または申請する)場合、資産要件はそれぞれ別枠で判定され、同じ資産を両方の充足に使い回すことはできません。片方を満たした残りで、もう片方も満たす必要があります。
たとえば派遣1事業所・紹介1事業所なら、実質的に基準資産額2,500万円以上・現預金1,650万円以上(2,000万円+500万円、1,500万円+150万円)が目安になります。「派遣の2,000万円を満たしているから紹介も自動的にOK」とはならない点にご注意ください。各事業の許可基準の詳細は厚生労働省「職業紹介事業の業務運営要領」に定められています。
両方の更新時期が近い場合は、1回の増資・1回の月次決算で両方の基準を同時に満たすよう逆算して金額を設計すると、手続の重複を減らせます。
直近の決算で満たせないときはどうすれば?
直近の年度決算で基準に届かなくても、許可・更新をあきらめる必要はありません。増資等の対策を実行したあとに月次・中間決算を組み、公認会計士の監査証明またはAUPを受ければ、その数値で再判定を受けられます。対策は大きく3つあります。
- 増資。 株主や経営者の払込みで資本を増やし、基準資産額と現預金を同時に改善できる、最も基本的な方法です。
- DES(デット・エクイティ・スワップ)。 役員借入金などの負債を資本に振り替え、手元資金を使わずに基準資産額を改善できる方法です。ただし債務消滅益など税務上の論点があるため、事前の検討が必要です。
- 負債圧縮・資産の組み替え。 借入金の返済や不要資産の売却・整理で貸借対照表を見直し、基準資産額の改善につなげる方法です。
3つの方法の使い分けやスケジュールの組み方は、資産要件を満たせない時の3つの方法(増資・DES・負債圧縮)の詳しい解説で図解しています。派遣向けの記事ですが、考え方は職業紹介にもそのまま応用できます。
監査証明とAUP、どちらが必要?
年度決算以外の月次・中間決算の数値で判定を受けるには、公認会計士による証明が必要です。求められる手続は申請の種類で異なり、新規許可申請では監査証明が必須、更新申請ではAUP(合意された手続)でも認められます。AUPは監査に比べて手続・費用・日数の負担が小さいのが一般的です。
ここで重要な注意点があります。その会社の記帳や決算に関与している会計士、すなわち顧問の公認会計士は、独立性の観点からこの証明業務を引き受けられません。独立した第三者の公認会計士または監査法人への依頼が必要です。両者の手続の中身は監査証明とAUP(合意された手続)の違いの解説で、依頼先の比較は依頼先の選び方(監査法人と会計士事務所の比較)で詳しく説明しています。
会計士が見る実務ポイント
職業紹介は基準額が500万円と派遣より小さいため、「うちは余裕がある」と思い込んだまま申請直前に不足が発覚するケースがあります。当事務所が許可・更新の支援で実際に見てきた、つまずきやすいポイントは次の3つです。
- 繰延資産と営業権(のれん)の控除漏れ。 基準資産額の計算では創立費・開業費などの繰延資産と営業権が資産から除かれるため、帳簿上の純資産より判定額が小さくなることがあります。
- 役員貸付金・仮払金などの内容確認。 回収実態がはっきりしない資産は、審査の過程で内容の説明や資料を求められることがあります。
- 増資タイミングのずれ。 証明の対象は増資が反映された月の月次決算のため、払込みや登記が月をまたぐと、想定した決算で判定を受けられないことがあります。
いずれも貸借対照表を早めに確認すれば防げるものです。提出期限の3〜4か月前を目安に、判定額の試算から逆算して準備することをおすすめします。
FAQ(よくあるご質問)
派遣と紹介の両方を更新する場合、資産要件はどうなりますか?
A. それぞれ別枠で判定され、合算はできません。派遣1事業所・紹介1事業所なら、基準資産額2,500万円以上・現預金1,650万円以上が実質的な目安です。更新時期が近ければ、監査証明・AUPを同じ月次決算でまとめて受けることで手続を効率化できます。
更新のときも必ず監査証明やAUPが必要ですか?
A. 直近の年度決算で資産要件を満たしていれば、原則として証明は不要です。証明が必要になるのは、年度決算で満たせず、増資等を行った後の月次・中間決算の数値で再判定を受ける場合です。更新申請ならAUPでも認められます。
顧問の税理士・会計士に監査証明を頼めますか?
A. 依頼できません。記帳や決算に関与している会計士は独立性の要件を満たさないため、監査証明・AUPとも独立した第三者の公認会計士に依頼する必要があります。
現金・預金150万円はいつの時点の残高で見られますか?
A. 判定に使う決算書(直近の年度決算、または再判定用の月次・中間決算)の貸借対照表に計上された、自己名義の現金・預金の残高で判定されます。一時的に口座残高を動かすのではなく、判定対象の決算日時点で基準を満たしていることが必要です。
まとめ
本記事の要点を5つに整理します。
- 有料職業紹介の財産的基礎は、基準資産額500万円以上×事業所数と現金・預金150万円+60万円×(事業所数−1)以上
- 派遣にある÷7(負債比率)要件は職業紹介にはなく、判定項目は2つ
- 派遣と紹介の両方を持つ場合は別枠判定で、合算・使い回しは不可
- 直近決算で不足しても、増資等+月次・中間決算+監査証明/AUPで再判定が可能
- 新規は監査証明が必須・更新はAUPでも可。顧問会計士には独立性の観点から依頼不可
この記事の著者
公認会計士・税理士 田中伸一(田中公認会計士事務所/派遣事業更新センター)
日本公認会計士協会 専門業務実務指針4450に準拠した、労働者派遣事業・有料職業紹介事業の許可申請に係る監査証明・合意された手続業務を専門とする。支援実績200件超、労働局での不受理ゼロ・更新率100%(当事務所受任案件の実績)。※これまでの実績であり、将来の結果を保証するものではありません。派遣専門の公認会計士3名が常駐。
公開日:2026年7月18日
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