
(最終更新:2026年7月17日)
この記事の要点
- 資産要件は現預金1,500万円・基準資産2,000万円・負債÷7の3つで同時充足が必要
- 基準資産額=資産総額−負債総額−繰延資産−営業権(のれん)で算出できる
- 現預金と基準資産額は事業所数を掛け、2事業所なら3,000万円・4,000万円が必要
- 有料職業紹介の基準資産は500万円×事業所数で、派遣とは別々に充足が必要
- 年度決算で満たせない場合も、増資後の月次決算+監査証明/AUPで再判定できる
労働者派遣事業の許可・更新の準備で最初につまずきやすいのが、この「資産要件(財産的基礎)」です。数字は3つだけですが、「決算書のどこを見るのか」「事業所が増えるとどうなるのか」で迷われる方が多い印象です。このページでは、貸借対照表(BS)のどこを見てどう計算するかを、図と計算例3ケースで整理します。
目次
派遣許可の資産要件(財産的基礎)は何が3つ?
基準資産額とは、資産総額から負債総額・繰延資産・営業権(のれん)を差し引いて算出する、派遣許可の財産的基礎を測る金額です。労働者派遣事業では2,000万円以上(×事業所数)が求められます。さらに現預金1,500万円以上、基準資産額≧負債総額÷7の2要件も同時に満たす必要があります。
| 要件 | 基準 | 見る場所(貸借対照表) |
|---|---|---|
| ① 現預金 | 1,500万円以上(×事業所数) | 資産の部「現金及び預金」 |
| ② 基準資産額 | 2,000万円以上(×事業所数) | 純資産をベースに算定(後述) |
| ③ 負債比率 | 基準資産額 ≧ 負債総額 ÷ 7 | 負債の部の合計 |
この3つは、すべて同時に満たす必要があります(1つでも欠けると許可・更新はできません)。
根拠は厚生労働省の労働者派遣事業の許可基準(財産的基礎に関する判断)です。
貸借対照表のどこを見ればいい?【図解①:BS図】
判定に使うのは決算書のうち貸借対照表(BS)1枚です。見る場所を図にすると、次のようになります。
┌─────────────────────┬─────────────────────┐ │ 資産の部 │ 負債の部 │ │ │ │ │ ★現金及び預金 │ 負債の部 合計 │ │ (要件①はここだけ) │ →「÷7」の分子(要件③)│ │ ├─────────────────────┤ │ その他の資産 │ 純資産の部 │ │ │ →基準資産のベース │ │ ▲繰延資産・営業権 │ (要件②③) │ │ (基準資産から引く) │ │ └─────────────────────┴─────────────────────┘
計算式は、次の1行です。
基準資産額 = 資産総額 − 負債総額 − 繰延資産 − 営業権(のれん)
実務上は「純資産 − 繰延資産 − 営業権」と計算しても同じ結果になりますので、検算にお使いください。
なお、判定のベースはあくまで貸借対照表ですが、現預金の内訳などは勘定科目内訳明細書と整合している必要があります。申請時に突合されることを前提に、両者の数字は揃えておくのが安全です。
基準資産額はどう計算する?【図解②:計算ステップ】
計算は引き算4ステップです。実数を入れると次のイメージになります。
資産総額 8,000万円
│ − 負債総額 5,500万円
▼
2,500万円
│ − 繰延資産 200万円
▼
2,300万円
│ − 営業権 0円
▼
基準資産額 2,300万円 ≧ 2,000万円 → 要件②クリア
繰延資産や営業権を引くのは、換金価値に乏しい資産は「財産的基礎」として数えないという考え方によるものです。M&Aでのれんが計上されている会社や、開業費などの繰延資産が残っている会社は、純資産の見た目より基準資産額が小さくなる点にご注意ください。
判定に使う決算書は、原則として直近の年度決算です。年度決算で満たせない場合は、増資などの対策後に月次・中間決算を作成し、公認会計士の監査証明または合意された手続(AUP)を付けて判定してもらう道があります(詳しくは資産要件レスキューの記事と監査vsAUPの記事をご覧ください)。
3つの要件を満たしているか、どう判定する?【図解③:判定フローチャート】
START:直近の貸借対照表を用意 │ ▼ 現金及び預金 ≧ 1,500万円 × 事業所数? ──NO──┐ │YES │ ▼ │ 基準資産額 ≧ 2,000万円 × 事業所数? ──NO──┤ │YES │ ▼ │ 基準資産額 ≧ 負債総額 ÷ 7? ──────NO──┤ │YES ▼ ▼ 増資等の対策+月次決算+監査証明/AUPで 資産要件クリア → 申請へ 再判定できます(→C1記事へ)
NGになった場合の出口は3つとも同じで、「増資などの対策→月次決算→公認会計士の証明→再判定」という流れです。詰み筋ではありませんので、NGが出た段階で資産要件レスキューの記事をご確認いただくのがおすすめです。
事業所が2つ以上あるとどうなる?【掛け算の例】
①現預金と②基準資産額は事業所数を掛けます。③(負債÷7)には事業所数を掛けません。
| 事業所数 | 必要な現預金 | 必要な基準資産額 |
|---|---|---|
| 1 | 1,500万円 | 2,000万円 |
| 2 | 3,000万円 | 4,000万円 |
| 3 | 4,500万円 | 6,000万円 |
200件超の実務でよくお見かけするのが、支店開設の後になって資産要件のジャンプアップに気づくケースです。事業所が1→2になると必要額は現預金+1,500万円・基準資産+2,000万円と大きく跳ねます。支店を出す計画がある場合は、出す前に更新時点のBSを試算しておくことをおすすめします。
有料職業紹介の資産要件とはどう違う?【比較表】
| 労働者派遣事業 | 有料職業紹介事業 | |
|---|---|---|
| 基準資産額 | 2,000万円 × 事業所数 | 500万円 × 事業所数 |
| 現預金 | 1,500万円 × 事業所数 | 150万円 + 60万円 ×(事業所数−1) |
| 負債比率 | 基準資産額 ≧ 負債総額 ÷ 7 | (派遣のような÷7要件はなし) |
派遣と職業紹介の両方の許可をお持ちの場合(あるいは併願する場合)は、それぞれの要件を別々に満たす必要があります。片方を満たせばもう片方も自動的にOK、という関係ではありません。
なお、派遣には小規模事業者向けの配慮措置(派遣労働者10人以下かつ1事業所などの限定的な緩和)がありますが、対象は限られます。多くの会社は上表の原則どおりとお考えいただくのが安全です。
実際の決算書で判定してみる【計算例3ケース】
ケースA:余裕で満たす(事業所1)
| BSの数字 | 金額 |
|---|---|
| 現金及び預金 | 3,000万円 |
| 基準資産額(純資産−繰延資産−営業権) | 4,500万円 |
| 負債総額 | 1億円(÷7 ≒ 1,429万円) |
判定:①3,000万≧1,500万 ○/②4,500万≧2,000万 ○/③4,500万≧1,429万 ○ → 3要件すべてクリア。このまま申請準備に進めます。
ケースB:ギリギリ満たす(事業所1)
| BSの数字 | 金額 |
|---|---|
| 現金及び預金 | 1,550万円 |
| 基準資産額 | 2,050万円 |
| 負債総額 | 1億4,000万円(÷7 = 2,000万円) |
判定:①1,550万≧1,500万 ○/②2,050万≧2,000万 ○/③2,050万≧2,000万 ○ → 形式上はクリア。ただし余白は現預金50万円・基準資産50万円しかありません。実務では、期中の賞与支払や借入返済で現預金が1,500万円を割り込むケースを何度も見てきました。ギリギリ層の方は、更新期まで月次で残高をモニタリングしておくと安心です。
ケースC:満たせない(事業所1)
| BSの数字 | 金額 |
|---|---|
| 現金及び預金 | 1,200万円 |
| 基準資産額 | 1,800万円 |
| 負債総額 | 9,000万円(÷7 ≒ 1,286万円) |
判定:①1,200万<1,500万 ×/②1,800万<2,000万 ×/③1,800万≧1,286万 ○ → このままでは更新できません。ただし、諦める必要はありません。増資やDES(借入金の資本化)で数字を作り、その後の月次決算に監査証明またはAUPを付けて再判定する道があります。具体的な手順は資産要件レスキューの記事にまとめています。
ケースB・Cに心当たりのある方は、決算書を拝見すればその場で3要件をチェックできます。無料相談をご利用ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 資産要件はいつの時点の決算書で判定されますか?
原則は直近の年度決算です。年度決算で満たせない場合は、増資などの後に月次・中間決算を作成し、公認会計士の監査証明またはAUPを付けて判定を受けることができます(→C1記事)。
Q2. 現預金1,500万円には売掛金や定期預金は含まれますか?
「現金及び預金」の範囲で見ますので、定期預金は含まれ、売掛金は含まれません。回収前の売掛金がいくらあっても要件①の足しにはならない点にご注意ください。
Q3. 繰延資産や営業権(のれん)があると不利になりますか?
はい、基準資産額の計算で控除されるため、その分だけ要件②③に不利に働きます。換金価値に乏しい資産を財産的基礎に数えないという趣旨によるものです。
Q4. 事業所が2つあると資産要件は2倍必要ですか?
①現預金と②基準資産額は2倍(3,000万円・4,000万円)必要です。③(基準資産額≧負債÷7)には事業所数を掛けません。
Q5. 有料職業紹介の許可も持っている場合はどうなりますか?
派遣・職業紹介それぞれの資産要件を別々に満たす必要があります(基準は上の比較表のとおりです)。
Q6. 3つのうち1つだけ満たせない場合も更新できませんか?
3要件は同時充足が必要なため、1つでも欠けるとそのままでは更新できません。ただし増資・月次決算・監査証明/AUPによる再判定の道がありますので、早めのご相談をおすすめします。
監修・執筆
公認会計士・税理士 田中伸一(田中公認会計士事務所/派遣事業更新センター)
労働者派遣事業・有料職業紹介事業の許可申請に係る監査証明・合意された手続の実績200件超。労働局への提出書類の不受理ゼロ。日本公認会計士協会「専門業務実務指針4450」に準拠した手続を提供しています。
公開日:2026年7月18日
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