
直近の年度決算で派遣事業の資産要件を満たせなくても、増資などで純資産を積み増した後の月次決算に公認会計士の証明を付ければ、その数値で判定を受け直すことができます。派遣事業の許可更新では、この月次決算が実務上の切り札になります。本記事では、月次決算の位置づけから作成手順、証明取得までのスケジュールを、労働者派遣事業・有料職業紹介事業の許可申請支援を200件超手がけてきた公認会計士が解説します。
この記事の要点
- 月次決算とは毎月末時点の貸借対照表のこと。年1回の本決算とは別に作成する
- 直近決算がNGでも増資後の月次決算+公認会計士の証明があれば再判定できる
- 基準日は増資の払込み・登記が完了した後の月末BSとするのが原則
- 必要書類は銀行残高証明書・総勘定元帳・登記事項証明書など主に5点
- 申請期限は満了3か月前。資産要件に不安があれば満了6〜7か月前に着手
月次決算とは?(年度決算との違い)
月次決算とは、年1回の本決算(年度決算)とは別に、毎月末時点の勘定残高を締めて作成する貸借対照表・損益計算書のことで、法律上の作成義務はありません。労働者派遣事業の許可更新では、この月次決算の数値をもとに資産要件の判定を受け直すことができるという実務があります。
年度決算が事業年度の実績を最終確定させる法定の手続きであるのに対し、月次決算はあくまで社内管理のための中間的な締めであり、作成そのものに法律上の義務はありません。上場企業などでは経営判断のために毎月作成するのが一般的ですが、多くの中小企業では年1回の本決算しか組んでいません。派遣事業の許可更新においては、この「普段は作らない」月次決算を、資産要件の再判定のためにあえて作成する、という実務が生まれます。
なぜ月次決算で資産要件の判定を受けられるのか?
直近の年度決算で資産要件(現預金1,500万円以上・基準資産2,000万円以上・基準資産が負債総額の7分の1以上)を満たせない場合でも、増資等で財務を改善したうえで月次決算または中間決算を作成し、公認会計士による監査証明または合意された手続(AUP)による証明を受ければ、その数値で判定を受けることが認められています。
この取り扱いは、日本公認会計士協会「専門業務実務指針4450(労働者派遣事業等の許可申請等に係る合意された手続業務等に関する実務指針)」に沿った、確立された実務です。
ここで注意したいのは、証明が必要になるのは「年度決算以外の数値で判定を受ける場合」という点です。自社で作成した試算表を自己申告として提出しても、資産要件を満たす資料としては扱われません。関与のない外部の公認会計士による監査証明またはAUPの報告書があって初めて、月次決算の数値が判定材料として認められます。
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月次決算はどうやって作る?必要な書類は?
月次決算の作成は、不足額の確認から証明の取得まで、おおむね7つの工程で進みます。単なる試算表の出力ではなく、証明に耐える精度まで残高を確定させる作業が中心になります。
- 不足額の確認――直近の年度決算で現預金・基準資産・÷7の3要件を確認し、不足額を把握する
- 増資等の実行――株主総会の決議から払込み、登記完了までを済ませる
- 基準日の設定――登記完了後の月末を月次決算の基準日とする
- 元帳の締めと現預金の確定――総勘定元帳を締め、現預金は銀行残高証明書で確定させる
- 関連科目の整理――売掛金・買掛金、仮払金・役員借入金など残高が不明確な勘定を整理する
- 月次貸借対照表の作成――確定した残高から月次BSを作成する
- 公認会計士への依頼――関与のない外部の公認会計士にAUPまたは監査証明を依頼し、報告書を受け取る
月次決算の作成にあたっては、主に次の5点の書類を準備します。
- 総勘定元帳(月次締め後のもの)
- 銀行残高証明書(現預金の確定用)
- 増資の登記事項証明書・払込みを証する書類
- 売掛金・買掛金の残高一覧
- 固定資産台帳(該当がある場合)
実務上つまずきやすいのが、現預金の扱いです。現預金は銀行残高証明書によって残高が確定するため、会計処理でかさ増しすることはできません。一方、時価のある有価証券を保有している場合は、月次決算日時点の時価で評価替えすることで基準資産額に反映できることがあります。保有する資産の種類によって打てる対策が変わるため、早い段階で専門家に相談することをおすすめします。
月次決算はどの月を基準にすればいい?
月次決算の基準日は、増資の払込みと登記が完了した後の月末とするのが原則です。増資が反映されていない月次BSでは、資産要件の判定に使うことができません。
増資は、株主総会等の決議、払込み、登記という手続きを経て初めて法的に完了します。登記が完了する前の月末で月次決算を締めてしまうと、その時点ではまだ増資後の純資産・現預金が反映されておらず、証明の対象にできません。
実務でよくあるのが、登記完了前に月次を締めてしまうケースです。増資の効力発生と登記完了のタイミングを勘違いして早めに締めてしまうと、締め直しが必要になり、数週間のロスにつながります。増資を実行する際は、払込みと登記が完了する日を先に確定させたうえで、その翌月以降のどの月末を基準日にするかを決めるとよいでしょう。
月次決算から証明取得までのスケジュール感は?
更新申請は許可の有効期間満了日の3か月前までに行うのが原則です。そこから逆算すると、資産要件に不安がある場合は満了の6〜7か月前から動き出すのが安全です。
| 時期の目安 | やること |
|---|---|
| 満了7〜6か月前 | 直近決算で3要件を確認し、対策の方針を決める |
| 満了6〜5か月前 | 増資等を実行する(払込み・登記完了まで) |
| 満了5〜4か月前 | 登記完了後の月末で月次決算を締める |
| 満了4か月前 | 独立性のある公認会計士のAUP・監査証明を取得する |
| 満了3か月前 | 労働局へ更新申請する |
更新申請の期限(満了3か月前)は、厚生労働省の労働者派遣事業関係業務取扱要領に基づく取り扱いです。前倒し受付の運用は労働局によって異なるため、管轄労働局の案内も確認してください。
証明の取得自体は、資料さえ揃っていれば最短数日で完了することもあります。時間がかかるのはむしろ、月次決算を証明に耐える精度まで締める工程です。公認会計士による監査証明・AUPの費用相場はおおむね15〜30万円で、当センターは11万円(税込)〜(事業所数1・総資産2,500万円以内の事業者様の場合)でお受けしています。残高証明の取得や増資関係書類の準備は、早めに着手しておくと全体のスケジュールに余裕が生まれます。
FAQ(よくあるご質問)
Q1. 月次決算と年度決算はどう違いますか?
年度決算は事業年度ごとに1回、法律上の手続きとして確定させる本決算です。一方、月次決算は毎月末時点の勘定残高を締める中間的な決算で、法律上の作成義務はありません。派遣事業の許可更新では、年度決算で資産要件を満たせない場合に、公認会計士の証明を付けた月次決算で判定を受け直すことができます。
Q2. 自社で作った試算表をそのまま提出することはできますか?
できません。年度決算以外の数値で資産要件の判定を受けるには、公認会計士(または監査法人)による監査証明もしくは合意された手続(AUP)の報告書が必須です。自己申告の試算表だけでは、資産要件を満たす資料として扱われません。
Q3. 顧問税理士や顧問会計士に月次決算の証明を依頼できますか?
依頼できません。この証明は公認会計士(監査法人)の業務であり、税理士資格のみでは行えません。また、公認会計士資格を持つ顧問の先生であっても、日頃の会計・税務に関与している場合は独立性の要件から証明を引き受けられないのが原則です。関与のない外部の公認会計士へ依頼する必要があります。
Q4. 増資をしなくても月次決算だけで資産要件を満たせますか?
不足の内容によります。負債の圧縮や資産の組み替えだけで要件を満たせるケースもありますが、多くの場合は増資によって純資産と現預金を同時に積み増すのが最も確実な方法です。不足額の内訳(現預金・基準資産・÷7要件のどこが不足しているか)を確認したうえで、対策を検討する必要があります。
Q5. 月次決算の証明にはどれくらいの費用がかかりますか?
公認会計士による監査証明・AUPの費用相場は、おおむね15〜30万円です。当センターの報酬は11万円(税込)〜(事業所数1・総資産2,500万円以内の事業者様の場合。規模に応じて個別お見積り)でお受けしています。
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